report.1 感染拡大
4月20日、国家衛生局と計画生育委員会の情報によると、2013年4月19日16時から4月20日の16時までに中国全土でH7N9鳥インフルエンザの病例が5例増加した。(上海:1例、江蘇省:1例、浙江省:3例)
これにより、全国で96例が確定診断され、その中の18名が死亡、9名が回復、69名が定点医療機関で救命されている。
病例の分布は、
北京:1例
上海:33例(11例死亡)
江蘇省:23例(3例死亡)
浙江省:33例(3例死亡)
安徽省:3例(1例死亡)
河南省:3例 と6省に渡る。
現在の所、病例は散発状態にあり、未だヒト-ヒト感染は証明されていない。
中国新聞網【微博】2013-4-20 20:57
国際保健学教室では、これまで4月1日からH7N9鳥インフルエンザのrumor surveillanceを行っております。
一般的に外国へ発信されるメディアの情報では、何人が感染し、何人が死亡したのかということが多いと思いますが、感染者がどのように発病し、どんな臨床症状を表現し、国がどのような対策措置を取っているのかというのも非常に重要な情報です。
海を挟んでいるとはいえ、今回の騒動の中心にある上海は国際都市で、日本との間でも渡航者が多いため、いつどのタイミングで上陸するのか分かりません。
【世界での鳥インフルエンザの歴史】
1997年8月に香港で3歳の小児がH5N1鳥インフルエンザに感染したとの報告があった。世界で鳥インフルエンザが初めてヒトに感染し、この後数か月の間に18人が感染し、6人が死亡。
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1999年 香港 H9N2鳥インフルエンザ
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2003年 オランダ H7N7鳥インフルエンザ
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2004年 東南アジア H5N1鳥インフルエンザ
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2013年 中国 H7N9鳥インフルエンザにより感染例と同時に死亡例が報告された。
ここ数十年である一定の規模でインパクトを与えている鳥インフルエンザですが、今回のH7N9鳥インフルエンザがこれまでと違い不気味なのは感染源が未だに特定できていないことだと思います。
『ヒト感染を起こすH7N9鳥インフルエンザ診療治療方針と予防方針』
中国ではメディアなどの情報媒体を通じて発表されています。
①伝染源:現在のところ、不明(H7N9鳥インフルエンザキャリアーとなっている家禽類及びその分泌物或いは排泄物と推測されている)
②伝染経路:1)呼吸道感染 2)感染した家禽類の分泌物或いは排泄物等と密接に直接接触すること なおヒト-ヒト感染を証明する事例がない
③ハイリスク人群:家禽類の養殖、販売、屠殺業、加工業者
④潜伏期:7日以内
⑤臨床表現
1)一般表現:インフルエンザ症状(発熱、咳嗽、少痰など)に頭痛や筋肉痛及び体調不良を伴う。
2)重症患者:病状の発展は迅速で、重症肺炎や体温が39℃以上になり、呼吸困難が出現する。血痰を伴うこともある。ARDS(急性呼吸促迫症候群)、縦隔気腫、敗血症、ショック、意識障害、急性腎障害などに発展する。
⑥同時に以下の4項の臨床症状があればモニターする
・発熱(腋窩体温≧38℃)
・肺炎の影像学特徴がある
・発病早期に白血球数が低下或いは正常、或いはリンパ細胞分類計数が減少。
・臨床的或いは実験室的に診断が出来ずに一般的な肺炎とされているもの
H7N9は感染の拡大が非常に速いのも注目するべきことでしょう。
特に、報告されている発症日でまとめてみると、4月1日前後で発症した感染者が集中していることが分かります。特に4月3日は7例の発症と最多で、次に3月29日と4月1日に6例ずつと続きます。
また、4月6日には河南省、11日には北京での発症があり感染拡大の様子が分かります。
発症者の分布をみてみますと、17日までの報告では上海が一番多くて約40%、次いで江蘇省と浙江省で26~27%となっております。しかし死亡例は、上海が約70%を占めるという結果となっています。
【発症から死亡までの日数】
初期の頃(2月末~3月初旬)と3月末から4月にかけての発症から死亡までの日数にはそれぞれの特徴があります。
初期の頃は最低でも2週間、最長で30日と時間が長いですが、3月27日以降の発症では1週間前後と発症から死亡までのスパンが非常に短くなっています。感染者の既往歴を具体的に探っていかないと何ともいえないですが、基礎疾患があるとリスクが高くなる可能性があります。
【ヒト-ヒト感染の可能性は排除できるのか?】
現在、ヒト-ヒト感染を証明できるエビデンスが不足しているのではっきりとは言えないのが現状でしょう。しかし、次の2例について中国当局はヒト-ヒト感染の事例である可能性を考慮しています。
・上海で3月31日に報告された李(87歳)のケース:子供のうち1人が重症肺炎で本人発病前に死亡している。
・上海で夫婦が発症したケース。妻は3月22日発病、4月4日に確定診断され、13日死亡。夫は4月1日に発病し、4月13日に報道された。
本来、H7N9鳥インフルエンザウィルスは人体の上呼吸道の上皮細胞との結合能力が非常に弱いが、今回のH7N9は、1)HA蛋白にほ乳類のシアル酸に適応すると考えられる変異が入っていること、2)PB2蛋白には増殖至適温度が37度になると考えられる変異がはいっていることから、ヒトへの感染力が高まっていることが考えられます。
また、ヒト-ヒト感染の可能性を否定する根拠にはならないので、引き続き調査を進めていく姿勢を示しています。
今後も感染者の報告例は増加していくと思います。
感染拡大を防ぐための対策と対応策を考え、実行に移すことが非常に大切だと思います。